うそとほんとすなとねこ

風の向くまま気の向くまま、自称読書家が今まで読んだ本を羅列する程度のブログです。

【詩】パウル・ツェラン「死のフーガ」

 どうも、お久しぶりの沙猫です。

すいませんね。ドイツの語学学校行かせてもらってました。そのせいでネタはあったくせに中々書けずにいました。屑です。


今回はいつもと趣向を変えて、自分が最近気に入った詩の紹介。

また縁起でもねえ話なんだろって? ご名答。面倒な二学期の幕開けにふさわしい縁起でも無い詩です。

それではご覧ください、パウル・ツェラン「死のフーガ」。


 まずは以下のリンク二つをたどっていただきたい。それぞれ朗読の動画と詩の全訳が載ったブログです。朗読は作者のツェラン氏本人によるもの。ドイツ語注意な。


https://youtu.be/gVwLqEHDCQE

https://warabipoem.exblog.jp/10077782/


どうです。人によっては左腕と邪気眼がうずき出す人もいるのではないでしょうか。

「夜明けの黒いミルク」ですよ。これを朝に、昼に、晩に飲むんですよ。「宙に墓をほる」んですよ。退廃的な雰囲気が立ちこめている。それでもってダンスの曲とか、「金色の髪」とか、変なところで華やかなテーマを差し込んでくるのがずるい。黒いワンピースの胸元の、真珠一粒ついた銀製ブローチのよう。

敢えて頭悪く言わせてもらいます。

ほんとすこ。最オブ高。


 ……とまぁいつも以上にフリーダムな語りでお送りしましたが、ここからはこの詩ができた経緯について。

 作者パウル・ツェランドイツ第三帝国時代を生き延びたユダヤ人。強制収容所へ送られ、ユダヤ人の扱いに胸を痛めて、この詩は当時の経験を浪漫的に誇張して書いたものといわれています。(それにしたって誇張がすぎませんかねぇ?)


私が好きなのは「夜明けの黒いミルク」を飲むところと、「きみの金色の髪マルガレーテ きみの灰色の髪ズラミート」ってところ。


それぞれを解説していくと、

夜明けの黒いミルク=(直訳すると「夜明けが所有する黒いミルク」)毎食振る舞われる収容所の臭い飯。ただすり減らす為の命を長らえさせるもの。

マルガレーテ=ドイツの典型的な名前。ドイツのアイデンティティの一『ファウスト』に出てくる美しい悲劇のヒロインの名です。金髪碧眼は純粋ゲルマン人の象徴。

ズラミート=聖書に登場する女性の名前で、ユダヤ人の所象徴。「灰色」なのは気苦労で白髪になったからだと予想できます。


「夜明けの黒いミルク」を飲み、もはやドイツの地に居場所を無くしたユダヤ人は、日々「宙に墓を掘る」のです。そんな彼らの気分に構わず蛇(ナチスの仲間)と戯れる男(将校)は、ダンスの曲を奏でるよう言います。士気高揚の為ですね。


そしてここからの急展開がまた臨場感を高めてくれるのです。地を掘れ…歌え…奏でろ…と矢継ぎ早に命令をする男。まるでテンポの早いダンスの曲みたいにね。

そしてベルトの金具に手を伸ばし、ねらいたがわず……

……ツェランは収容所で母親を銃殺されたと語っています。この場面は、彼のこのつらい記憶を象徴しているのでしょうね。


リンク先で「夜明けの黒いミルク」は“純粋なドイツ人の時代の幕開けと、排除されたユダヤ人の黒い影”を象徴しているとありました。

だけど私はこの言葉に、不安な気持で最悪な一日の幕開けを待つ、憂鬱な気持をくみ取りました。

……冒頭で私は「二学期の幕開けにふさわしい」と書きました。殆どの読者の皆さんは憂鬱でしたでしょうね、夏休みの最終日。チンプンカンプンな宿題の提出日と、会いたくないボケナス連中との再会を待つだけの日々。

ユダヤ人達はこんなもんじゃないくらい憂鬱な迫害の日々を暮らしていました。

黒いミルクの夜明けってのは、そういう嫌な一日の始まりを告げているんだと思います。私は。



初回から不謹慎極まりないすなねこでした。

ちゃんと学校行けよ。お前等は自由なんだから。外に出なきゃ始まらないものは沢山あるぞ。