うそとほんとすなとねこ

風の向くまま気の向くまま、自称読書家が今まで読んだ本を羅列する程度のブログです。

ジョージ・オーウェル『1984年』【後編】

どうも、沙猫です。『1984年』書評、読んでくださり有り難うございました。

 昨日の回では全体主義国家オセアニアの「二重思考」について書きましたが、

(まだ読んでない人はここ↓から飛んで読んでね)

 

hontsandnyanko.hatenadiary.com

 

今回は物語のなかでも特に心に残った部分を考察したいと思います。

 当たり前ですがネタバレです。予備知識の無い状態で読みたい方はこの辺でお戻りください。

 

 

 

 

 

以下物語の核心に迫るネタバレ

 

 

 

 

ウィンストン氏は、同じ反体制派と思しきオブライエンという男に誘われ、彼の屋敷で秘密の打ち合わせをします。
志を同じくする者に会えたのを喜ぶのもつかの間、氏は憲兵に囚われ「改心」の為の収容施設へ。反逆者は反抗したまま殉じるのは許されず、ここで間違いを認め更生して初めて処刑されるのです。
氏がそこで対面したのは、事もあろうにオブライエンその人でした。彼が氏に語った「『偉大な兄弟』が権力に拘る理由」はこの一言に集約されるでしょう――
「権力の目的は権力それ自体にある」
つまり、人々を統治する手段として権力を行使するのではなく、権力を保つために権力を追求するのです。


党員達が一人でオセアニアを・ひいては世界を支配する事などできやしません。でも幾人か集まってグループで行動すれば、或る程度の権力は持てます。
しかし「出る杭は打たれる」ということわざがあるように、グループを作ると意見に食い違いが起こって面倒臭い事もあります。でも頭の良い奴・もしくは多数派の意見に従っておけば簡単に解決できるのです。赤信号皆で渡れば怖くないってやつです。

次第にグループは大きくなり、後輩のメンバー(平党員)が増え、自分達の話に耳を傾ける外の人間(プロレ)も増えます。外の人間は大体グループの考えに詳しくなく(実際プロレはリテラシーに劣る場合が多く、ただ党のもたらすものを享受するだけの立場です)「あのグループって俺たちより頭良いから、難しい事は任せとけばいいよね」とすんなり従ってくれます。
後輩も同じ事です。グループの先輩や古参メンバーの考えを自分の考えに置き換える事で、グループ内の安定を保ちます。或る程度知識がある分、従わせるのは難しいのですが……できないなんて事はありません。前述した「二重思考」があったでしょう。彼らの「2足す2」が4だったとしても、グループの人間はみんなすすんで5と言うことになっているのです。

でなきゃ拷問でも何でもして、2足す2は5だと自発的に言うようにさせるのです。

つまり「あいつらに従っとけば間違いない」と自発的に思わせる事が最高の方法なのです。

 

ウィンストン氏がプロレを革命の切り札だと思ったのには、こういう理屈が根底にあったんですね――個々人が変な事を「何か変だ」と思い、自分の意見をしっかり持つようにすれば、独裁が進む事はありません。
……逆に言うと「自分よりあんまり考えてない諸氏」が相手だったら、上手いこと言いくるめられれば我々も容易に独裁ごっこができるわけです。ちょうど下級生に威張りちらす運動部の上級生みたいにね。

さぁ諸君! 我々ももっと知識や人脈をつけて「あなた方に任せれば大丈夫だ」と言われる人間になろうじゃありませんか。そして同志達と共に絶対的な地位をつけようではありませんか。
もうスピーチで差別発言しても、古い友達から賄賂を貰っても、大事な事業の結果が想像より酷くなってしまっても大丈夫ですよ!

だってその頃には諸君は「あなた方が間違えるわけがない」って皆に思われているでしょう?

以上! すなねこでした! Let's独裁!

 

 

 

1984年 (ハヤカワ文庫 NV 8)

1984年 (ハヤカワ文庫 NV 8)